矢祭町視察報告(前編)
① 総論
平成13年10月、矢祭町は「合併をしない町宣言」を行い、自立した町づくりを歩み始めた。そして平成18年度に「自治基本条例」を策定し、「法令を以って命令されない限り合併をしない」ことを決め、数々の自立計画を実施している。
そのため徹底的な行財政改革を行い、限られた財源で最大の住民サービスを行い、さらに財源確保と地域活性化のために「企業誘致」を行った。
現在は「元気なこどもの声が聞こえるまちづくり」をめざし、子育て支援策を充実させており、出生率は1.94に上昇している。
② 人件費削減
最初に取り組んだのが、義務的経費の中で最も大きい“人件費削減”。
かつて100人以上いた役場職員も、定年退職者不補充により、現在70人まで削減(うち一般行政職は50人、のこりは保育士など)。
さらに「50人以下になるまで補充しない」と町長は言い切る。そして重ねて、「現状でも、民間企業なら一人でやれる仕事を1.5人かけてやっている」と人員削減の手を緩めない。また嘱託職員も34人を1人にまで削減した(今後廃止予定)。
自らも律し、特別職(町長・助役・教育長)の報酬は、総務課長と同額(月53.3万円)に減額。また職員の特別勤務手当も2種を残し全廃した。
議会も平成16年の改選に合わせ、定数を18人から10人に減らした。
③ 住民サービスの向上
役場の窓口業務は365日、平日は朝7時30分~18時45分、土日祝日は8時30分~17時30分までとなっている。なお、この対応は時間外勤務ではなく、フレックスタイム制(時差勤務か?)や振替休日で行っているとのこと(私も実際に7:30に行ってみたが職員が2人いた)。
職員の自宅を窓口がわりに「出張役場」として開放、遠距離や山間地の高齢者サービスなどに有効とのこと。
また町では、行革で得た財源により、国保・介護保険料や水道料金などの公共料金を他の町村よりも低く設定し、住民負担を少なくするとともに、子育て支援策も充実させている。
④ 企業誘致
過疎地の活性化としては、観光(グリーンツーリズム)や特産品による一品運動などが一般的だが、矢祭町の活性化策は、私の頭の想像の域を超えている。
こんなド田舎で企業が来るのか…、と思わざるをえないような土地で(失礼)、企業誘致に成功し、見事に財源を確保している。
矢祭町ではバブルの後計画中止となったゴルフ場の計画跡地(山林)を工業用地とし、企業誘致を積極的に行った。とりわけ東証1部上場企業の㈱SMCの工場では、現在、900人が働いており、さらに今後第二工場を建設し2000人規模の雇用を創出するとのこと。税収にも貢献しており、町の税収7憶1千万円のうち、約3分の1は、㈱SMCということであった(㈱SMCは、連結売上高約3400億円、経常利益約960億円の世界的空圧機器メーカー)。
もよりの高速道路(常磐道・東北道とも)のICから車で1時間、東北新幹線郡山駅からも茨城県水戸市からも鉄道で1時間半という立地のハンデと、工場進出しても従業員の確保もままならない町に進出した企業の英断もさることながら、誘致に成功した前町長のトップセールスには驚きを禁じ得ない。
⑤ まちづくり委員会
まちづくり委員会は、矢祭町の官民共働を語る上で欠かせない組織。
町長からは、「総合計画策定などを行った委員会」という説明を聞いたが、「もったいない図書館」で出会った委員会メンバーの話では、自主的に“まちづくり”を考える住民会議のようだ。
総合計画の策定の他、月に1度程度会合を開き、行政だけに頼らない、町民の自主的な活動を推進している。
また政策提言も行っており、後述の「子育て支援策」もこの提言をもとに実施したとのこと。
⑥ 元気なこどもの声が聞こえるまちづくり(子育てサポート日本一目指して)
矢祭町の出生率は1.94。人口7000人規模の山村としては非常に高い数値となっている。これを支えるのが町の政策。主な施策は下記の通り。
・第3子以降の赤ちゃん祝い金・健全育成奨励金
第3子 100万円、 第4子 150万円、 第5子以上 200万円
・保育料(H18年度から半額に)
3歳未満児…11,950円、 3歳児…9,050円/月額
・幼稚園授業料…4,000円/月額
・給食費
幼稚園・小学校…150円/1食あたり、 中学校…200円/同
・妊産婦検診費用助成
自己負担を上限3000円とし、13回まで助成。
・中学生修学旅行事業
オーストラリアの姉妹都市への修学旅行を実施(自己負担5万円)。
・通学費助成
小中学生のバスの定期代や自転車購入費の一部補助を実施。
来年度は、高校生への通学費助成も検討中とのこと。
(町内に高校がなく皆遠くまで通うため)
はじめまして、白あんと申します。
時々拝見させていただいております。
視察、ご苦労様でした、また、報告どうもありがとうございます。
この様に努力されてる自治体もあるのかと大変参考になりました。国が破綻してもわがまちだけは生き残る、それくらいの気概が必要なのだなと感じました。
前編とありますので後編にも期待しております。
今後もよろしくお願いします。
投稿: 白あん | 2007年11月17日 (土) 09時57分
白あんさん、コメントありがとうございます。
秋山さんのブログで、このブログをご紹介いただいたそうで、恐縮しちゃいます・・・^^;
まだまだ勉強中の身でして、議員としてたいした活動はできていませんが、今後ともご意見をお聞かせください。
非常に学ぶことの多い自治体で、報告したいことはたくさんありますが、矢祭町視察報告(後編)は週明けになるかもしれません。
後編は「もったいない図書館」「スタンプ券の活用」「第二役場」などを予定しています。
ただ、矢祭町のHPに「広報やまつり」がアップされており、それを見れば、だいたいの政策や住民の声は掲載されています。
浜松は政令市になったとはいうものの、合併しない小さな町にこそ、学ぶ点があると思います。地方自治の原点を見た気がします。
投稿: 田口 章 | 2007年11月17日 (土) 12時11分
はじめまして。
私も先日、矢祭町にインタビューで行きました。
今はインタビュー結果を、卒業論文にまとめている
真っ最中です。
行政メインでの視察だったので、
「まちづくり委員会」については、あまり聞くことができなかったので、参考になりました!
投稿: コドモ侍 | 2007年12月 1日 (土) 16時52分
コドモ侍さん、はじめまして。
お役に立ててなによりです・・・^^
矢祭町の課長さんも言ってましたが、学生さんの訪問って、結構あるそうですね。
卒論ができたら、ぜひ、読ませてください・・・^^
「若者の政治離れ」ってよく言いますけど、私は「政治の若者離れ」だと思っています。
わかりやすく、みんなに関心を持ってもらえるような政治をつくっていきたいものですね。
コドモ侍さんも、がんばってくださいネ。
投稿: 田口 章 | 2007年12月 1日 (土) 17時34分
★矢祭町、本当にすごいですね。
政令市浜松が逆立ちしても敵わないって、感じです。
私も人件費削減、定員適正化には「採用をしない」、「補充をしない」という方法が一番だと思っていました。行革をやっていますが、家族もある市の職員の首を切ったり、給与を下げることは絶対にできません。その意味では、上の方法が一番ですよね。
下げる必要なないし、しばらく給与表が上がらないからと言って、辞職が増えるとも思いません。
公務員を就職先に選ぶ人には、「社会貢献したい」という気持ちと同時に「絶対潰れない安心の就職」という意識が必ずあったと思います。「多少給与は安くても」という本音もあったはずです。それを裏切って「首を切ったり」「給与を思い切り能力給にして競争を強いる」のは絶対にモチベーションを下げます。
採用をしないで、半減を待つという矢祭町の基本的な方針を他の市町村も見習うといいですね。
人事委員会の委員にも参考にして欲しかった情報です。
ではでは。
PS.コドモ侍さんの存在、頼もしいですね。
投稿: 秋山雅弘 | 2007年12月 5日 (水) 06時45分
秋山さん、コメントありがとうございます。
これまで視察した矢祭町や鳥取県をみると、行財政改革には“当事者”の意識改革が欠かせないと思います。
トップの意識が職員に伝わり、そして住民にも拡がっていく・・・。
矢祭は「合併しない」という選択で、鳥取県は人口60万人を切る最小県として、みんなが危機感を共有できたからこそ、行財政改革が進んだのだと思います。
加えれば・・・、矢祭町でも鳥取県でも、議会も努力しています。
私も議会の一員として、自分のできる役割を果たしていきたいと思います。
投稿: 田口 章 | 2007年12月 5日 (水) 20時06分
お久しぶりです。
卒業論文が完成し、落ち着いたので、書き込みさせていただきました。
拙い文章ですが、メールにて送信させていただきます。
文献にもあるようなことが中心ですが、
住民の方や商工会の方の話、まだあまり出回っていない
第2役場構想の(職員さんが考える)具体的な内容なども、まとめてあります。
お役に立てればと思います。
投稿: コドモ侍 | 2007年12月28日 (金) 03時04分
コドモ侍さん、お忙しい中、ありがとうございました。
早速、卒論読ませていただきました。
民間企業の仕事の基本に「現場、現実、現物」の3現主義というのがありますが、ヒアリングを中心に自分の目で見て、耳で聞いた事項を丁寧にまとめてありましたね。
私はわずか数時間の滞在でしたので、まだまだ不十分な調査しかできませんでしたが、中味の濃い卒論だと思いました。
とりわけ「第二役場」は、まだ具体的な話は聞けなかったので、大変参考になりました。ありがとうございました。
自分の23年前の卒論は、とても人に見せられたような代物じゃなかったな~と、今更ながら恥ずかしくなってしまいます。
コドモ侍さん、これからも当ブログへのご意見をお聞かせくださいね。
投稿: 田口 章 | 2007年12月31日 (月) 18時29分